消費者ABSアップデート

消費者ABSアップデート(9月)

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プライマリー:

9月のABSのプライマリー市場は活況で、41件に及ぶ290億ドル超が値決めされ、対して2019年9月は230億ドルでした。実際、9月としては2007年以降で最大の発行額となりました。発行体にバランスシートの強化を望ませる資金の超低コストだけでなく、改善傾向にあるファンダメンタルズおよび利回りに対する投資家の需要までにわたる市場の状況が、案件の発表、大幅な超過応募、発行規模拡大および当初ガイダンスを下回る条件での値決めに対する最高の状況を提供しました。供給の増加における先に述べた理由に加えて、発行体が案件の大統領選挙前に値決めを望んでいるのではないか、ひいては、供給の前倒しの要素の可能性もあるのではないかと弊社は考えています。年初来では1,510億ドルが値決めされ、前年同期比では18%減少しました。

9月は、自動車ローン関連の発行が、プライマリーの引き続き主な供給源で、150億ドル超が値決めされました。プライムとサブプライム、自動車リースからディーラーのフロアプランの取引まで、全ての種類の自動車関連が市場で発行されました。AAAの自動車案件のプライマリーにおけるスプレッドは新型コロナウイルス前の水準まで回復し、ラストキャッシュフロー(LCA)のAAAの平均スプレッドは、プライム案件で20~25bpの範囲で、サブプライム案件で30~40bpの範囲となりました。劣後自動車案件のスプレッドはまだ回復の余地が残っていますが、新型コロナウイルス以前の水準へ急速に近づいています。サブプライム自動車案件のBBBのトランシェでは、今年初めの+110bpから、規模の大きい発行体におる+140bpまでタイト化しています。シニアと劣後の自動車案件のスプレッドのベーシスも150bpから110bpへ狭まり、新型コロナウイルス前の100bpへ近づいています。

コンテナABSの発行は8月の活発なペースが続き、5件で34億ドル超が値決めされ、Aのトランシェの平均スプレッドは175bpから190bpの間でした。コンテナABSは年初来では60億ドルが発行され、対して2019年通年は7億ドルでした。コンテナの発行体が、多くの既存案件を借り換えるために低金利環境を利用したため今年の発行は増加し、クーポンのコスト削減分は平均1~2%です。さらに、コンテナの供給不足に、世界の交易拡大による稼働率上昇も相まって、リース料金が安定し、ファンダメンタルズも堅調に維持されました。

民間学生ローンも、借り手が低金利が借り手に対して既存の学生ローンの借り換えを促したため、前年同期比18%増加しました。さらに、ターム物資産担保証券貸出制度(TALF)の適格性と、改善傾向にあるファンダメンタルズのパフォーマンスが、力強い需要の維持に貢献しました。学生ローンの年初来の発行額は130億ドルで、2019年の総額を既に上回っています。9月の値決めスプレッドは、デュレーションと発行体によりますが、AAAのトランシェで50bpから115bpの範囲でした。

クレジットカード関連が発行されなかったことは特筆すべきで、年初来でも値決めはわずか25億ドルです。この額は前年同期比90%弱の減少で、金利環境が原因で、クレジットカード債権の証券化よりも預金による資金調達の方が魅力的であると銀行が判断したためです。航空機ABSの発行も前年同期比65%減少し、新型コロナウイルス以降に航空旅客が減少したためです。

出所:ブルームバーグ、TCW

TALFのアップデート:

TALFプログラムは、6月に貸出ファシリティを開始してから、7回目の申込日を迎えました。現在までに、総額32億ドルのローンがファシリティから要請され、大半が零細企業(SBA)の証券化(55%)とCMBS(34%)でした。特筆すべきことに、僅かに11%のローンが適格なコンシューマーABS債のファイナンス要請を求められ、民間学生ローンと保険料ファイナンスのセクターに限って要請を受けました。

セクター別TALFローン決済額

出所:FRB、TCW

コンシューマーABSの中で、TALFローンが要請された額が少ない2つの主な理由は以下の通りです。1)発行体の案件に対してはTALF投資家以外からの豊富な需要があるため、発行体がTALFの適格性取得を見送ると決定しました。2)TALF適格のABSのスプレッドは、TALFローンの調達コスト(OIS+125)よりも低く、TALFの借り手にとってリターンはマイナスとなります。

一言で言えば、TALFプログラムの発表そのものが、ABSのスプレッドに十分な追い風を提供した一方で、近い将来にスプレッドがワイド化した場合の良好なバックストップも確立しました。

セカンダリー:

9月を通じて大半の資産クラスのスプレッドが堅調に推移し、プライマリーの極端に多額の供給によって、フロー・スプレッドが月末にかけて若干軟化しました。多くのセクターのスプレッドは、軟化にもかかわらず、新型コロナウイルス前の水準へ戻りましたが、サブプライムの自動車や無担保の消費者金融、さらには、レンタカー、鉄道ならびに航空機などの新型コロナウイルスによって直接的に影響されるセクターのクレジット・リスクはその例外でした。

出所:バンク・オブ・アメリカ/メリルリンチ

月間の取引額は、8月の180億ドルから若干増加して210億ドルとなりました。四半期の取引額は、710億ドルから第3四半期は620億ドルへ減少しましたディーラーは9月にABSを買い越しましたが、ディーラー在庫は依然、過去数年間の低水準となっています。

TRACEによるABSの月次取引額

出所:FINRA、ブルームバーグ、TCW

ファンダメンタルズ:

消費者ABSのファンダメンタルズは総じて、引き続き改善しており、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARES)法、FRBによる刺激策、および、様々なサービサーによる返済の一時猶予や条件緩和の先送りなどの救済プログラムによって、デフォルトと返済滞納が低水準に維持されているためです。さらに、大半の消費者の財務状況は引き続き健全で、米国の貯蓄率は14%と高く(10年間の平均は8%)、消費者が政府におる給付金を貯蓄および負債返済に充てる公算の方が大きくなっています。

クレジットカード:

クレジットカードのパフォーマンスは安定的で、貸倒償却額は若干増加したものの、返済滞納額は減少し、超過スプレッドも上昇しました。シティバンクのクレジットカード追跡データの内容は以下の通りです:

  • 貸倒償却率は2.31%で、前月比10bp上昇し、年初来では8bp低下しました。
  • 3カ月平均超過スプレッドは14.54%で、前月比25bp上昇し、年初来では10bp低下しました。
  • 月次返済率は28.85%で、前月比47bp低下し、年初来では1%ポイント上昇しました。

出所:シティ・リサーチ

自動車:

プライムとサブプライムの自動車のパフォーマンスはまちまちで、消費者が猶予プログラムから離れて通常の返済状況に戻ったために30日超の返済滞納は前月比若干増加しましたが(前年同月比では減少)、デフォルト率と損失率は低下しました。

  • プライムの自動車の、30日超の滞納率は前月比25bp上昇の1.17%となったものの、年率換算損失率は10bp低下して0.26%となりました。
  • サブプライムの自動車の、30日超の滞納率は107bp上昇して10%となりましたが、年率換算損失率は25bp低下して2.86%となりました。

出所:バンクオブアメリカ・メリルリンチ・グルーバル・リサーチ

損失率が低下した主因は中古車価格の上昇で、マンハイム・ユーズド・ビークル・インデックス(マンハイム中古車価格指数)は前年比16%上昇しました。限られた在庫と少ない生産台数が、自動車価格を下支えしてきました。さらに、需要は好調で、9月の自動車販売台数は163万台(季節調整済み年率換算)で、今年2月以来の高水準でした。

また、債務が再編される新規の借り手の割合低下も、ファンダメンタルズの下支え要因です。S&Pによると、返済猶予されているプライム・ローンの割合は、7月は1.48%で、対して6月は3.6%でした。返済猶予されているサブプライム・ローンの割合は、7月は12%で、対して6月は16%でした。

学生ローン:

民間学生ローンのファンダメンタルズは、FFELPローンをアウトパフォームし、8月と比較して返済滞納とデフォルトは減少しました。

  • FFELPの60日超の滞納率は、8月の2.51%から9月は2.61%へ若干上昇しましたが、数年来の低水準にとどまっており、滞納/返済猶予の借り手の割合が第2四半期は20%で、対して2020年第1四半期は13%でした。なお、返済滞納/返済猶予の借り手は、もはや債務不履行者とはみなされてません。
  • 民間の学生ローンの債務不履行は6bp低下して0.6%となり、損失率は56%で数年来の低水準です。

学生ローン:60日超の滞納率(%)

出所:モルガン・スタンレー

消費者ローン

消費者ローンのパフォーマンスは引き続き安定しており、滞納が減少するにつれて改善しています。フィッチ・レーテンングスの米国マーケットプレイス・ローン・モニターによると、7月の60日超の滞納率は30bp低下の1.42%でした。デフォルトは6月比若干増加しましたが、前年同月比では80bp低下して8.34%となりました。プラスのパフォーマンスの大半は、拡大された失業保険を含む家計への財政支援に帰せられます。加えて、多くのサービサーがローンの返済猶予を認めており、それはABSの多くの担保プールの約20%に達しています。しかし、追加財政刺激の見通しが不透明で、返済猶予(一般的に2~3カ月)の期限が到来するため、今後のパフォーマンスを引き続き慎重にみています。

出所:フィッチ・レーテングス、フィッチ・ソリューションズ、インデックス

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