以前とは異なる住宅ローン市場
世界金融危機(GFC)以降、非エージェンシー証券化商品に組み込まれているローンの返済パフォーマンスは見事なものでした。GFC以前に組成されたローン(レガシー)とGFC以後に組成されたローン(2.0)の間で、返済のパフォーマンスに大きな差があることが確認されています。このように、非エージェンシー証券化商品の裏付けとなるローンの返済パフォーマンスが大幅に改善した主な要因は二つあります。一つは2011年以降に起きた住宅のエクイティ部分(ホームエクイティ)の着実な増加であり、もう一つは引き受けやオリジネーションの基準に対する政府の監視と規制です。下表は、非エージェンシー市場のさまざまなサブセクターで発生した累積損失の状況です。表の上半分のグレーのセクターは、GFC以前のオリジネーションを表し、緑色のセクターはGFC以後のオリジネーションを表しています。
ローンにおける清算や損失の累積比率(セクター別)
出所:BofAグローバル・リサーチ、1010Data
ホームエクイティの増加
2011年以降の住宅価格の順調な上昇を受けて、主にホームエクイティが増加したことで、住宅市場の市場規模が拡大しました。このようなホームエクイティの蓄積は、借り手が苦しい状況でも住宅ローンを滞納しないという大きなインセンティブになっています。借り手の返済状況が良好になる主な要因の一つは、所有する住宅にどれだけのエクイティがあるかということです。このことは、融資基準が緩和され、消費者が頭金のために個人の貯蓄を一切使わずに住宅を購入できた(ゼロダウンと呼ばれる)GFCに至るまでの数年間では、それほど顕著なことではありませんでした。住宅市場が反転し、住宅価格が下落すると、これらの借り手はアンダーウォーター(住宅の実際の価値よりも住宅ローンの残高が多い状態)に陥ってしまいました。このような借り手には、住宅ローンを払い続けるインセンティブがほぼなく、「サブプライム危機」として知られる幅広いデフォルトが蔓延しました。それ以降、融資基準は厳しくなり、ほとんどの場合、住宅購入の際に最低でも20%の頭金を支払い、借り手に「個人的な関与」を要求するようになりました。この頭金と、住宅価格の上昇によるホームエクイティの増加により、家計のエクイティは過去最高の24.2兆ドルに達し、2011年以降の住宅ローンの借り手による優れた返済パフォーマンスに貢献しています。
米国戸建て住宅市場の市場規模
出所:FRBフローオブファンズ、Urban Institute.直近の更新は2021年6月時点
住宅ローン産業の徹底的な見直し
GFC以前の数年間、多くの借り手が返済能力を無視した住宅ローンを組んでいました。貸し手の緩い引受基準、借り手の収入や負債の不確認(ライアーローン)、導入金利(当初だけの低金利)に基づいた借り手の認定などが住宅ローン危機の原因となり、大恐慌以来の深刻な不況を招いたのです。金融危機の再発を防ぐため、住宅ローン業界の大規模な見直しが行われ、政府の規制と監視が強化されました。2010年に米国議会は金融業界にとって最も重要な法律となる「ウオール街改革、および消費者保護に関する法律」(以下「ドッド・フランク法」)を通過させ、立法化しました。全体として、ドッド・フランク法は金融システムを改革し、同法の複数の条項が数年かけて発効する中で、新たな政府機関が追加されました。特に、返済能力/適格住宅ローン(ATR/QM)規則は、金融機関が申込者の利益にならないローンを提供することを事実上困難にする規則です。これにより、消費者が住宅ローンを定められた条件に従って返済する能力に関する「合理的かつ誠実な判断」が金融機関に求められます。この判断は、金融機関が住宅ローンを組む前の資格審査段階で、すべての借り手に対して行う必要があります。
次に示すアーバン・インスティテュートが発表した住宅与信利用可能性指数(HCAI)は、借り手のリスクと商品のリスクに対する貸し手の許容度を評価するもので、ローン期間中に90日以上の延滞が発生する可能性のある持ち家購入ローンの割合を算出しています。HCAI は、GFC 直前の 2006 年にピークに達しました。ここで明らかなように、貸し手が取る商品リスクは基本的になくなり、借り手のリスクも著しく低下しました。
出所:eMBS、コアロジック、HMDA、国際通貨基金、アーバン・インスティテュート
注:注:デフォルトは、どの時点においても90日以上の滞納状態と定義。直近の更新は2021年4月時点
金融機関が借り手の返済能力(ATR)を確認し、文書化することが求められるようになったことで、近年組成された住宅ローンは、金融危機以前に組成されたものと質の面で異なっています。例えば、次のグラフでは、最近実行された住宅ローンの70%以上が、クレジットスコアが760+以上の借り手を対象としたものであるのに対し、2006年のシェアは25%だけでした。2005 年から 2007 年にかけて実行された住宅ローンには、書類の簡素化、金利のみの支払いまたは負の償却(支払金利の繰延)、および借り換えのための多額のエクイティ部分の引き出しなどが多く見られましたが、これらは現在ではほとんど見られないものです。
米国の住宅ローンの70%以上はクレジットスコアが760点以上の借り手向け
米国住宅ローンのクレジットスコアの分布(実行された四半期ごと)
出所:出所:NY連銀、ゴールドマン・サックス・グローバル・インベストメント・リサーチ
結論
2007年と比較して、今日では、返済中の借り手が住宅ローンを返済する余裕があると確信できる理由が増えています。困難な状況にも拘らず、住宅ローン市場全体でローンの返済がより順調に行われています。当社は、住宅ローン債権に対して引き続き前向きな見通しを持っており、現在の住宅市場の動向は、このセクターに投資する際のファンダメンタルズ面の価値を支えていると考えています。保守的な引受基準、良好な住宅需給、歴史的な低金利に加えて、住宅価格の上昇が期待されることが、今後もバリュエーションの支えとなるでしょう。現在の住宅ローン市場は投資に対して非常に大きな下支えがありますが、このような融資環境が永遠に続くことはないと認識しており、規律あるボトムアップ型の投資を続けます。住宅ローンの引受基準は依然として保守的であり、GFC前に比べて引受基準が大幅に厳しくなっている数少ない信用リスクセクターの一つですが、引受基準の動向には常に注意を払っています。
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